国際海事機関(IMO)第58回海洋環境保護委員会(MEPC58)の審議
                    結果について

                                                    平成20年10月14日


 IMO MEPC58が10月6日から10日までロンドンで開催されました。主要審議事項の開催結果は以下のとおりです。
  1.船舶からのNOx・SOx等排ガス新規制(MARPOL条約附属書VI改正)の採択
  2.GHG(温室効果ガス)に関する新造船設計指標の試行的実施を承認
  3.シップリサイクル新条約案の承認
  4.バラスト水処理システムの承認(我が国提案のシステムを含む)及び「バラスト水サンプリングガイドライン」(G2)
   の採択

 10月6日から10日まで、IMO第58回海洋環境保護委員会(MEPC58)がロンドンのIMO本部で、我が国を含む97の
国及び地域並びに54の機関からの参加により開催されました。
 我が国からは、国土交通省の染矢技術審議官他、(独)海上技術安全研究所その他の関係海事機関・団体に
より構成された代表団が出席し、我が国の意見の反映に努めました。
 今次会合における主要審議結果の概要は以下のとおりです。

1.MARPOL条約附属書VI(大気汚染防止規則)改正案の採択

(1)背景・経緯
 船舶からのNOxやSOx等の排出ガスによる大気汚染の防止については、MARPOL条約附属書VIに規定され、附属書
VIが発効した2005年5月より規制が実施されています。現在の規制値は附属書VIが採択された1997年当時の技術水
準に基づき設定されているため、将来の技術水準の向上を踏まえて、附属書VI発効後、規制を見直すこととされていま
した。このため、2005年7月に開催されたMEPC53において規制見直しを開始すること及び検討項目が合意され、下部
小委員会である、ばら積み液体貨物・ガス(BLG)小委員会における技術的検討を経て、本年4月に開催されたMEPC
57にて、附属書VI改正案が取りまとめられました。

(2)審議結果
 今次会合では、MEPC57で取りまとめられた改正案が採択されました(規制内容は別紙1参照)。本改正には、2016
年より大気環境の改善が必要な海域に限定してNOx規制値を現行規制値より80%削減する我が国の提案が取り入れ
られています。また、改正の発効日について、原案の2010年3月1日から我が国提案の2010年7月1日に変更されまし
た。本発効日の変更は、2010年春に開催されるMEPC60において規制の実施に必要なガイドラインの最終化・採択を
行った上で、条約の発効を迎えることを可能とするもので、新ルール導入時の混乱を極力回避することが狙いです。

2.国際海運からの温室効果ガス(GHG)削減対策

(1)背景・経緯
 気候変動枠組条約京都議定書は、削減数値目標の対象を附属書Iに掲げる先進国に限定しており、国際海運に
ついては、第2条第2項において、国際航空とともに専門の国際機関(国際海事機関(IMO)及び国際民間航空機関
(ICAO))を通じた作業によって、GHG排出量の抑制を追及することとされています。
 現在、IMOにおいては、国際海運からのGHG削減に向け、技術的な手法(船舶のエネルギー効率の改善、代替エネ
ルギーの活用等)、運航上の手法(減速航行、最適航路選択等)、経済的な手法(燃料油課金、排出量取引等)
についての検討が進められており、MEPC57において、我が国からも新造船の燃費効率を評価する指標(CO2排出設
計指標)を策定することを提案していました。
 今次会合の主な結果は、次の通りです。なお、GHGワーキンググループの議長に、(独)海上技術安全研究所の吉
田国際連携センター長が選出されました。

(2)審議結果
(a)国際海運から排出されるGHGに関する調査
 世界の海事関係研究機関・大学等11組織からなる国際コンソーシアム(我が国からは(独)海上技術安全研究所
及び海洋政策研究財団が参加)が実施していた「国際海運から排出される温室効果ガスに関する調査」の途中結果
が報告され、2007年における国際海運から排出されるCO2が8億4300万トン、地球全体のCO2排出量の約3%であ
ること等が発表されました。
 なお、本調査研究はIMO加盟各国等の拠出金により今後も続けられることとなっています。これに対し、(社)日本船
主協会が10万ドルを支援することを表明し、議長から謝辞が述べられました。

(b)GHG排出削減対策に関する原則
 IMOでは、MEPC57において、国際海運におけるGHG排出削減対策に関して9つの原則に合意しましたが、当該原則
の第2項目「いかなる規制も、抜け道を防ぐため、拘束力を有しすべての旗国に平等に適用されること」が、気候変動枠
組条約(UNFCCC)で定める「共通だが差異ある責任(Common but differentiated responsibilities: CBDR)」の原
則に反するとして、中国、インド、ブラジル等が立場を留保していました。
 今次会合においても、国際海運におけるGHG排出削減対策が、IMOの原則である「非差別適用(No more favourable
treatment:NFT)に基づくべきか、「共通だが差異ある責任」の原則に基づくべきかを巡り議論が交わされました。
 日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア等のUNFCCC附属書1)国を中心とする20カ国は、国際海運については
全ての船舶を対象とした規制でなければ市場歪曲が起こるばかりでなく、規制効果も得られないとしてNFT原則を支持
しました。一方、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、サウジアラビア等の23カ国のUNFCCC附属書非附属書1)国は、国
際海運におけるGHG排出削減対策においても途上国に配慮がなされるべきであるとして、CBDR原則を支持しました。
 このように、GHG排出削減対策に関する原則については、先進国と途上国の間の溝が大きく、原則に関する結論は
出ませんでした。そのため、今次会合では、規制の適用(規制対象となる国の範囲)の議論は行わず、規制及び勧告の
内容についてのみを審議を進めることとなりました。

(c)エネルギー効率設計指標(デザイン・インデックス)
 個別の船舶のCO2排出性能(燃費性能)を示す設計指標の審議の結果、CO2排出設計指標の名称をエネルギー
効率設計指標と変更することとし、指標算出式を含む「エネルギー効率設計指標算出方法に関する暫定ガイドライン」
(以下、「設計指標・暫定ガイドライン」という。)を用いて設計指標を試行することを承認しました。
 我が国は、設計指標は実海域での性能を正しく評価するべきとの考えから、実海域での速力を反映する修正係数
(fW)を提案していましたが、その重要性及び必要性が認識され、設計指標・暫定ガイドラインに盛り込まれました。
 なお、本係数の算出方法(個船シミュレーション又は標準fWカーブ/表により算出)等については、今後審議を経て
別途ガイドラインとして取りまとめられる予定です。今後は、試行により得られた経験に基づき、暫定デザイン・ガイドラ
インを改善していくこととなります。

(参考)
●エネルギー効率設計指標: 船舶の設計・建造段階で、船舶の仕様に基づいて、トン・マイルあたりのCO2排出
量を事前評価して、各船に付与するもの。各船には一つの指標しかない。

(d)エネルギー効率運航指標(オペレーショナル・インデックス)
 CO2排出運航指標については、本年6月にオスロで開催されたGHG対策中間会合において、強制措置としてでは
なく、自主的な活用を促すものとすることが合意されていましたが、当該方針が今次会合でも確認されました。
 また、CO2排出設計指標と同様に、CO2排出運航指標の名称をエネルギー効率運航指標と変更することになり
ました。
 2005年7月に承認された「船舶からのCO2排出運航指標の自主的な試行に関する暫定ガイドライン」(以下、
「運航指標・暫定ガイドライン」という。)については、これまで試行により得られた経験に基づき見直しを行ってきたとこ
ろですが、今後は、コレスポンデンス・グループ(CG)を立ち上げ、引き続きCGにおいて見直しの検討を行うこととなり
ました。なお、CGのグループ長は、今次会合でGHGワーキンググループの議長を務めた(独)海上技術安全研究所
の吉田国際連携センター長が務めることとなりました。

(参考)
●エネルギー効率運航指標: 船舶の運航中に消費した燃料消費量からトン・マイルあたりのCO2排出量を計算して
得られるもの。各船についても、運航中に変動する。

(e)その他(経済的手法等)
 国際海運からのGHG排出削減対策として、燃料油課金や排出量取引制度といった経済的手法の審議が継続され
ているところですが、今次会合においては、エネルギー効率設計指標の策定を優先したため、経済的手法について具
体的な議論はなされず進展はありませんでした。なお、来年7月に開催されるMEPC59において、経済的手法を詳細
に議論することが合意されました。

(f)中間会合の開催
 IMOにおける国際海運からのGHG排出対策に関する議論の促進のため、来年3月9日から13日まで第2回GHG対策
中間会合がロンドンにて開催されることが合意されました。中間会合では、今回承認された設計指標・暫定ガイドライン
に基づく試行結果を踏まえて見直しを行うほか、運航指標・暫定ガイドラインのCGでの議論を踏えた見直し、船舶のエネ
ルギー効率向上を管理・支援するツールとして提案された「エネルギー・マネジメント・プラン」等について議論することが
予定されています。

3.シップリサイクル新条約案の承認

(1)背景・経緯
 シップリサイクル(船舶の解撤)に関しては、主として途上国で行われている解撤の労働安全と環境保全レベルを向上
させることを目的として、船舶とリサイクルヤードの要件(※)を定める新条約の策定作業が進められており、これまで我が
国はこの条約策定作業を主導してきました。今次会合においては、条約案を承認するための審議が行われました。

※要件の概要: 船舶における有害物質の使用禁止・制限、船上の有害物質一覧表の作成・備付、基準を満たした
解撤ヤードの承認、リサイクル計画の作成、加盟国の承認ヤードにおける解撤の義務付け、各種報告義務等

(2)審議結果(詳細は別紙2)
 条約案は、条約発効要件等ごく一部を除いて合意に達し、承認されました。その結果、2009年5月11〜15日に香港
にて開催予定の外交会議において採択される予定となっています。
 未合意事項である条約発効要件については、我が国より早期批准を促進するため提案した案(締約国数と船腹量の
組み合わせに解撤能力を組み合わせる)が多数に支持され、具体的な要件設定については合意するまでに至らなかった
ものの、我が国提案をベースに外交会議で検討し決定することとなりました。
 また、条約の履行を支援するためのガイドラインのうち、有害物質一覧表作成ガイドライン及びリサイクルヤードに関する
ガイドラインについては、これまで我が国が中心となり策定作業を進めていましたが、次回会合(MEPC59)までコレスポン
デンス・グループ(CG)においてさらなる検討を行うこととなり、そのCGのグループ長は、国土交通省海事局安全基準課の
大坪国際基準調整官が務めることとなりました。これらのガイドライン案は次回会合において、審議・採択される予定です。

4.バラスト水管理条約関係

(1)背景・経緯
 バラスト水の移動に伴う生物の移動防止を目的として、2004年2月にIMOにおいてバラスト水管理条約が採択されま
した。同条約では、2009年新船(バラスト水容量5000m3未満)から段階的に一定の生物殺滅性能を有するバラスト
水処理システムの搭載を義務付けることなどが定められています。

(2)審議内容及び対応の基本方針
(a)バラスト水処理システムに使用する活性物質の承認
 今次会合では、バラスト水処理システムに使用する活性物質の承認について基本承認及び最終承認合わせて6件
の審議が行われ、我が国提案のTGコーポレーションが開発した「TGバラストクリーナー」及び「TGエンバイロンメンタルガ
ード」について、基本承認が得られたほか、2件の基本承認及び2件の最終承認が得られました。審議された具体的な
バラスト水処理システム名、審議結果については、以下のとおりです。

 
バラスト水処理システム名(提案国)
製造者名
承認




TG Environmentalguard and TG Ballastcleaner(日) TGコーポレーション(日)
Greenship's Ballast Water Management System(蘭) Greenship Ltd(蘭)
Ecochlor Ballast Water Treatment System(独) Ecochlor(米)



Electro-Clean System(韓) Techcross(韓)
OceanSaver Ballast Water Management System(ノルウェー) OceanSaver(ノルウェー)
NK-O3 BlueBallast System(韓) NK(韓)
×

(b)バラスト水管理規制条約実施のためのガイドラインの採択
 2004年2月に採択されたバラスト水管理規制条約の決議に基づき、同条約を実行するための指針として、14項目
のガイドラインが作成されることとなっており、これまでに13項目のガイドラインが採択されました。今次会合では、残る最
後のガイドラインである「バラスト水のサンプリングに関するガイドライン」(G2)が採択されました。

(c)バラスト水処理システムの情報報告制度に関するMEPC決議の採択
 条約の実施には、搭載が義務付けられるバラスト水処理システムの開発状況をIMOにおいて把握することが必要で
あるとの観点から、我が国が第12回BLG(2008年2月開催)に提案したバラスト水処理システムの情報報告制度に
関するMEPC決議が採択されました。

(d)2010年に建造される船舶へのバラスト水処理システムの搭載に関する検討
 条約を確実に履行するためには、搭載を義務付けられる全ての船舶に必要なバラスト水処理システムが供給される
必要があります。そのためシステムの開発状況等を踏まえつつIMOで審議した結果、2009年に建造される船舶について
は一定の猶予期間が必要との総会決議が2007年11月に採択されました。また同決議では、2010年に建造される船
舶へのバラスト水処理システムの搭載義務付け猶予の要否についても再審議するようMEPCに求めておりますが、今次
会合では結論が得られず、次回MEPC59においても引き続き審議されることとされました。


添付資料

別紙1(PDFファイル)

別紙2(PDFファイル)


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